【文献】社会シミュレーションの技法-シミュレーションとは

社会シミュレーションの技法
著者:Nigel Gilbert・Klaus G. Troitzsch
訳者:井庭崇・岩村拓哉・高部陽平
発行所:株式会社 日本評論社
発行:2003年2月25日
 
シミュレーションは、社会の複雑な振舞いが比較的単純な行動の組合せによって創発するという考え方に基づいて、社会的プロセスや経済的プロセスを考察する新しい方法を提供するものです。
  
シミュレーションとはなにか。
  
シミュレーションとは、特殊な種類のモデリングのことです。モデルを作成するということは、私たち人間が現実世界を理解するために普段から行っていることでもあります。モデルとは、ある構造やシステムを小さくして、詳細を省き、複雑さを整理することで、単純化したものです。
 
統計モデルと同じように、シミュレーションには、ユーザによって準備される「入力」と、シミュレーションが実行されたときに観察される「出力」があります。多くの場合、入力はモデルがある特定の社会状態に一致するために必要な属性であり、出力は時間を通じてのモデルの振舞いのことです。
 
例えば、こんな参考をひとつ。今私たちは、人々がどのようにして結婚相手を選ぶのか、ということに関心があるとします。あなたは結婚相手を探すときに、自分の理想を全て満たしてくれるような人に出会うまで相手を探しますか?それとも自分の希望を「十分に」満たしてくれる人を見つけたらそこで探すことを止めますか?実際には、人々はどのような相手探しの方法をとっているのでしょう。この調査をするにあたって、直接本人たちに聞いてみるということは、あまり効率的な方法とはいえないですよね。つまり、彼らは意識的な戦略に従っていないかもしれませんし、たとえそんな戦略があったとしてもそれを打ち明けてくれるかわかりません。そんなときに、妥当と思われるいくつかの仮定からなる「結婚相手探し」モデルを作成します。そこで何が起こるのかを観察し、現実に観察された相手探しパターンとプログラムの振舞いとを比較・検討をすることができます。以上のような例は、シミュレーションの適用方法の典型的なものです。
 
もし、人々がどのように相手を探すかに関する理論があるならば、それを手順として表現することができ、最終的にはコンピュータ・プログラムとして構築することができます。プログラムは、手順を文章で表現するよりも正確なものになるので、理論を洗練するのに役立ちます。つまり、「理論を発展させるための方法」としてシミュレーションは利用することができるのです。
 
理論をプログラムの形にして、いくつかの仮定を設定することによって、そのシミュレーションを実行して振舞いを観察することができようになります。今回の例では、結婚することになるかもしれない人々の集団があって、その各々の人にランダムに設定された「相性」の数値があると仮定します。さらに、この相手を探すシミュレーション上の「人」は、ランダムに選ばれた人と順々にデートをすることができるとします。ちなみに、このシミュレーション上の「人」のことを、一般に「エージェント」(agent)といいます。各デートの最後には、エージェントはその相手と落ち着くのか、それとも別れてまた他の人とデートに行くのかを決めなければいけません。この決定は、まだ出会ったことのない人との相性を知ることはなく、またすぐに振ってしまった相手とよりを戻すという可能性もないという設定に基づいて行われます。実際にどのように振舞うかはここではなしにします(ごめんなさい)。この結婚相手探しシミュレーションはTodd(1997)によるものです。
 
今見てきた相手探しゲームの例は、シミュレーションの目的のひとつである「社会の特徴についての理解を深める」ということを表しています。そこらじゅうで行われているようなデートの行動を観察することは可能ですが、人々の背後にある戦略を直接的に見出すことは難しいため、シミュレーションが有効な手段として考えられます。
 
もう一つのシミュレーションの使い方は、「予測」です。もし現実の一部のダイナミックスを忠実に再現するモデルが作成できれば、時間の経過をシミュレートすることで「未来を覗いてみる」こともできるでしょう。こういったシミュレーションは人口統計学やビジネスにおいても利用されています。そして、もう一つ。人間の能力を「代理」する新しいツールを開発することです。例えば、パイロットがフライトシミュレータを利用するような、訓練のために使用されているものです。また、家庭用のゲームもそうですね。
 
社会科学者がこういったシミュレーションに興味を持ちはじめたのは、「発見」と「形式化」を手助けしてくれる可能性があるからなのです。社会科学におけるシミュレーションの歴史はここでは述べませんが、社会シミュレーションの分野では、「たとえエージェントが単純なルールでプログラムされていても、全体として振舞いが非常に複雑なものとなり得る」ということが、ひとつの研究テーマとなっています。社会システムを分析するための従来の統計的手法は、ほとんど全ての場合が変数の間に線形の関係性があると仮定しています。つまり、ある変数が受ける影響がある変数を足し合わせたものに比例するということですが、これは非常に制限された仮定となります。これに対して、複雑系理論(Waldrop 1992; Kauffman 1995)と呼ばれている新しい学際的分野では、非線形のシステムに関しての包括的な概念が探求されています。
 
シミュレーションは、「空間」と「合理性」を扱う理論にも、有効に適用できます。例えば、地理的な影響は、実際の地域を忠実に再現するシミュレーション上の地形に、エージェントを配置することでモデル化できます。その一つの実例が、グリッド状のセルを用いる「セルオートマトンモデル」です。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *

CAPTCHA